亡くなった家族の借金が見つかった!
相続に関する法律相談で「亡くなった親が借金をしていたようで、請求書が届いたがどうすればいいか」という内容の相談は数多く受けてきました。亡くなるまでは借金があることを全く知らされていなかった場合は、特に驚いてしまうと思います。
相続人は、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産(借金等の債務)も含めたすべての財産を承継しますので、トータルではマイナスになることも少なくありません。このような場合にはどうすればいいのでしょうか。

民法の定める相続順位
相続の順序は民法という法律で定められています。原則となるルールをご説明します。まず、亡くなった方の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。配偶者以外の相続人については、第1順位から第3順位まで順位が定められています。第1順位の人がいる場合は、第2順位の人は相続人とはならず、第2順位の人がいる場合は第3順位の人は相続人にはなりません。
第1順位は亡くなった方のお子さんです(民法887条1項)。
第2順位は亡くなった方の直系の尊属です。父母や祖父母で親等が近い方が相続人となります(民法889条1項1号)。
第3順位は亡くなった方の兄弟姉妹です(民法889条1項2号)。
相続人になるかどうかは選択できる
上記のとおり、相続順位は民法が定めていますが、配偶者だから、順位が上だから相続しなければならないというものではありません。民法は相続人になるかどうかを考える期間と相続人になりたくない場合にどうすればよいかについても定めています。

相続するかどうかを考える期間(熟慮期間)
民法915条は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に相続放棄ができるとしています。この相続放棄をすると、はじめから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。亡くなった方のお子さんが1人であった場合、このお子さんが相続放棄をすると第1順位の相続人がいなくなりますので、第2順位の相続人(第2順位の相続人がいなければ第3順位の相続人)が放棄をするか相続するかを選択することになります。この3ヶ月の期間を熟慮期間といいます。
なお、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、①相続開始原因(被相続人の死亡・失踪)と②自己が相続人であることを知った時を意味します。つまり、自分が相続人であることを知らない間は熟慮期間はスタートしません。例えば、第1順位の相続人が全員相続放棄をしたことを知らずにいた場合、次の順位の相続人の熟慮期間はスタートしないということです。したがって、相続人が複数いる場合には、熟慮期間は、それぞれの相続人につき、別々に進行する場合もあるのです。
相続放棄のやり方
相続放棄についてよくある勘違いとして、例えば、遺産分割協議の中で他の相続人に対して「自分は相続放棄する」と告げれば相続放棄をしたことになると考えている場合があります。相続放棄は家庭裁判所への申述が必要です(民法938条)。この相続放棄の申述をしなければ、債権者(被相続人にお金を貸していた人など)に対して、相続放棄を理由に弁済を拒否することはできません。相続放棄の手続は難しいものではありません。裁判所のホームページで申述書や記載例は公開されています(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html)
相続財産の処分をすると相続放棄できない?
熟慮期間中であっても相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合、相続人は、原則として、単純承認したものとみなされます。条文ではこのように規定されています。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
そして単純承認をして場合の効果については次のように規定しています。
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
権利だけではなく、義務も承継してしまいますので、例えば被相続人の借金についての返済義務も承継してしまうのです。もっとも、少しでも相続財産を使ったら直ちに単純承認にあたるわけではありません。
裁判例でも葬儀費用を相続財産から支出した事例において、社会的見地から不当なものとはいえないから、法定単純承認たる「相続財産の処分」には当たらないと判示しているものがあります(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定)。
相続放棄に関して、熟慮期間を経過してしまった、相続財産の処分をしてしまったといったケースについては、ぜひ法律相談をご検討ください。
※ この記事は、執筆当時の法令や判例、実務的な運用に基づいて作成しています。また、一般的な情報提供を目的とした記事となりますので、個別の事案については法律相談をご検討ください。