トートーメーとは
「トートーメー」(尊御前)とは、亡くなった方の名前や死亡年月日を記入した「位牌」をいい、トートーメーを通じてご先祖様を供養することで、亡くなったご先祖様が家の守り神として子孫を守るとされています。トートーメーを通じた先祖供養の慣習は中国の影響を受けて15~16世紀から始まったと考えられています。

慣習上のトートーメーの承継ルール
慣習によるとトートーメーは長男が承継するのが原則とされ、長男を避けて次男、三男以下に継がせてはいけないとされています。また、長男が相続できないときでも、娘に承継させてはならず、父方の血筋を引かない者に継がせてはならない、兄弟のトートーメーを同じ家に並べて祀らないといったいくつかのタブーもあります。
なお、もっとも、旧民法下における家督相続の制度があった当時、沖縄においては、慣習として、家督相続とトートーメー(祭祀)の継承はほとんど一致し、戸主の財産はトートーメーと共に家督相続人がこれを承継していたようです。
民法上のトートーメーの承継ルール
民法上のルールを見てみると、祭祀に関わるものを「祭祀財産」といい、トートーメーも祭祀に含まれます。そして祭祀は、相続財産とは別に承継される決まりになっています。そのため祭祀承継者は相続人でなくてもよく、相続放棄をしても祭祀承継者になることはできます。民法の条文を見てみましょう。
第897条
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
このように民法上も第一次的には祭祀承継者は慣習によって定まるとされています。各家庭によって慣習に従い、祭祀承継者を決めている家もあればそうではない家も出てきています。そこで争いになった場合には、家庭裁判所に決めてもらわなければならない事態もありうるということです。
慣習がない場合の家庭裁判所の決め方
被相続人が祭祀を主宰すべき者について具体的指定をせず,また,特定の者を祭祀を主宰すべき者とする慣習が存在することを認めるに足りる資料は存在しない場合について、東京高等裁判所 平成18年(ラ)第85号 平成18年4月19日決定が以下のように判断しています。
「この点については,承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係,承継候補者と祭具等との間の場所的関係,祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力,その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが,祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく,死者に対する慕情,愛情,感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから,被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって,被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち,他方,被相続人からみれば,同人が生存していたのであれば,おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」

トートーメーに関するトラブル回避のためには
上記の裁判例でも触れられているとおり、慣習の存在が立証できそうもないという場合に、祭祀承継者に関するトラブルをあらかじめ回避するための方策としては、被相続人が遺言書などにより予め祭祀財産の承継者を決めておくことが非常に重要です。遺言書とは異なり、祭祀承継者の指定方法は民法上定められているわけではありませんが、遺言書による指定であれば、他の相続人にも明らかにすることができるのでオススメです。 最近は終活をしっかりされている方が多くなってきていますが、決めておくべきことは多くあり、様々な法律上の問題が関係してきます。トートーメーの問題と同時に、トートーメーの承継者が相続財産もすべて引き継ぐことが多かった沖縄の慣習から遺産分割の問題が生じることも多いといえます。紛争を予防するという観点からも終活の一環として弁護士へのご相談も検討してみてはいかがでしょうか。

※ この記事は、執筆当時の法令や判例、実務的な運用に基づいて作成しています。また、一般的な情報提供を目的とした記事となりますので、個別の事案については法律相談をご検討ください。