借りたものは返さなければ…
借金が多額になったり、急に収入を失って返済ができなくなるなどの事情があり、多数の督促を受けながら金策に走り回ったり、返済のために借金を重ねるといったつらい状況になることもあります…
「借りたものは返さなければならない」のはそうなのですが、現実的に不可能となった場合は、自己破産という方法を使って、返済する責任を免除してもらうことも考えるべきなのですが、破産だけは絶対にしたくないとおっしゃる方もいらっしゃいます。どのように考えるべきなのでしょうか?

破産は経済的再生のための手段
「破産だけはどうしても避けたい」とおっしゃる方は、例えば「借金を踏み倒すなんて貸してくれた人や会社に申し訳ない」という罪悪感であったり、例えば家族に非難が及ぶかもしれない、社会からの信用を失って生活できなくなるかもしれないという不安感であったり、より具体的に保証人に迷惑をかけるのが申し訳ないという具体的な理由があったりします。しかし、そもそも破産は単純に「借金を踏み倒す」というものではありません。借金を破産について定めた法律を破産法といいますが、その第1条には次のように規定されています。
「破産法」
第一条(目的)
この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
つまり、破産とは一定の状態にある債務者(法律上の義務を負う人=借金の場合は借りたお金を返済する義務のある人)の清算のための手続であり、その目的は
① 債権者等の利害や権利関係の適切な調整
② 債務者の財産等の適正かつ公平な清算
③ 債務者の経済生活の再生の機会を確保
にあります。長い人生を送る中で経済的苦境に陥る可能性は誰にでもあります。そのような場合にひたすら返済を続けて過酷な日々を送るのではなく、一旦清算することで、経済的な再生をし、もう一度チャレンジできる環境を整えるための法制度なのです。
債務整理の手段を選択するにあたっては、人生全体、それはご自身だけではなく、配偶者やお子さんの将来も含めた長期的な視点で判断することが大切です。
無理な任意整理は状況を悪化させることも…
債務整理の方法の一つに任意整理があります。任意整理とは、破産などのように裁判所を利用することなく、貸金業者などと直接交渉し、利息のカットや分割払いなど返済計画について合意し、その合意に従って返済し完済する方法をいいます。
任意整理の場合、整理したくない債権者を除いて特定の債権者とのみ合意したり、将来利息がカットされ、長期の分割払いとなることで返済に余裕が生まれるという効果もあります。一方で無理な返済計画で合意した場合、合意した返済に再び窮するばかりか、弁護士費用の負担が新たな債務として加わり、最終的には破産しなければならない状況に陥ることもあります。そうなれば任意整理により合意した支払いを始めたときから、その支払に窮して破産するまでの時間、経済生活の再生が遅れることとなります。
任意整理の分割払いの回数は36回(3年)、長くても60回(5年)という場合が多く、例えば任意整理の対象となる債務の額が120万円だったとすると、毎月3万3000円〜2万円の返済が3年から5年継続できるかという長期的な視点での判断が必要になります。毎月の返済可能額を超える支払いを合意した場合、すぐに合意した分割払いができなくなることもあるのです。
このように債務整理の手段を選択するにあたっては、長期的な視点で経済的な再生ができるのかという判断が求められます。
裁判所で債権者に責め立てられる?
破産する場合、裁判所に呼び出されて裁判所や債権者から責め立てられて、ひたすら謝り続けるという状況になるのではないかと心配されるかもしれません。
債権者集会という集まりに呼び出されたり、破産管財人という人に家財道具を売り払われたり、それをご近所に見られたりすることで、精神的に追い詰められたり、引っ越しをしなければ生活できない状況に陥るのではないかという漠然とした不安感もあるかもしれません。実際にはどうなのでしょうか?

管財事件と同時廃止事件
破産事件では、裁判所が破産管財人を選任して、破産者の財産をお金に換えて、債権者に配当するなどします(管財事件)。この管財事件では、破産管財人が債権者に対して、破産に至る経緯や破産者の財産状況、破産手続の進捗状況を報告し、債権者から意見を聴取する集会(債権者集会)が開かれます。
しかし、すべての事件が管財事件となるわけではありません。 破産者の財産が少なく、破産管財人を選任しても上述したような財産をお金に換えて配当するという目的が達成できないときは、破産管財人を選任せず(したがって債権者集会なども行わず)破産手続が廃止されて終了する場合もあります(廃止されると免責手続に移ります)。裁判所が破産手続開始決定と同時に廃止決定も行うので「同時廃止」と呼ばれます。
「破産法」
第二百十六条(破産手続開始の決定と同時にする破産手続廃止の決定)
裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。
(2項以下省略)
管財事件になると破産管財人の調査や換価、債権者集会や配当手続などがありますので長く時間がかかりますが、同時廃止事件の場合は長い時間はかかりません。なお、裁判所が公表している「令和5年 司法統計年報(民事・行政編)」(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/721/012721.pdf)によると、自然人(法人ではない人)の自己破産申立ての60%以上が同時廃止となっています。
見通しを立てて、長期的な視点で判断
債務整理には、破産や個人再生、任意整理とさまざまな方法があります。いずれの手段にもメリット、デメリットがあり、総合的な判断で手段を選択する必要があります。この総合的な判断の中でも特に重要なのが「経済生活の再生」が実現できるかどうかであり、その判断には長期的な視点が必要です。
漠然と「破産はしたくない」という気持ちから決断してしまうとデメリットのほうが大きくなってしまうこともあります。法律相談により「同時廃止になる見通しなら破産も検討してみたい」というお考えに変わるかもしれません。
※ この記事は、執筆当時の法令や判例、実務的な運用に基づいて作成しています。また、一般的な情報提供を目的とした記事となりますので、個別の事案については法律相談をご検討ください。