交通事故と責任
交通事故を起こしてしまった場合、加害者はどのような責任を問われることになるのでしょうか。そしてどのような法律で解決されることになるのでしょうか。自動車は便利な移動手段ですが、高速で移動する鉄の塊でもあります。
そんな自動車を運転する者として、しっかりと責任を自覚して安全運転を心がけることが重要です。

加害者が問われる4つの責任
交通事故の加害者は、次の4つの責任を問われることになります。自動車などを運転する際には常にこれらの責任を自覚しておかなければなりません。
①刑事責任 | ②民事責任 | ③行政責任 | ④社会的責任 |
刑法や自動車運転死傷行為処罰法により刑罰を受ける可能性があります。 特に最近では、その被害の深刻さから厳罰化の傾向にあります。 | 交通事故により物を壊したり、人身に被害を与えた場合には、民法や自動車損害賠償保障法により、生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります。 | 道路交通法によって、反則金の納付や免許の停止・取り消しなどの行政上の制裁を受ける可能性があります。刑事罰ではありませんので前科はつきません。 | 法的な責任ではありませんが、マスコミに報道されるなど社会的な非難が及ぶ可能性があります。最近ではSNSで動画が拡散されることもあります。 |
交通事故を起こしたら…
交通事故は、起こそうと思って起こすわけではなく、運転者が果たすべき注意義務を不注意などで果たさず、起こしてしまうことがほとんどです。交通事故を起こした場合には、法律上、果たすべき義務があるのですが、それを怠ってしまうことで更に重い責任を負うこともあります。交通事故を起こしてしまった場合の以下の義務もしっかりと認識しておくことも重要です。
①運転停止義務 | ②救護措置義務 | ③危険防止措置義務 | ④事故報告義務 |
事故が発生した場合、それが単独事故であったとしてもすぐに運転をやめて停車する義務があります。 | 負傷している人がいた場合、すぐに救護する義務があります。怖くなって逃げてしまうのは「ひき逃げ」です。 | 事故に気づかない後続車などが追突するなどの事故が発生しないように危険を防止する義務があります。 | 運転者等は交通事故が発生した場合には警察に届け出なければなりません。事故発生場所などをすぐに報告します。 |
民事責任(損害賠償)はどうすれば…
交通事故を起こしてしまった場合、民事上の賠償責任を負うことになります。しかし、どこまでの損害をどれくらい賠償しなければならないのかについては難しい問題です。交通事故の当事者の一方のみに過失があるケースはむしろ少ないでしょう。こういった場合に、民事責任(損害賠償責任)についてはどのように考えればよいのでしょうか。

定型化・定額化された基準
交通事故はこれまでに数え切れないほど発生しており、多くの裁判例が積み上げられています。そして同じような交通事故による被害であるにもかかわらず、その賠償責任の範囲に大きな差異が生じたとすると、それは公平であるとはいえません。そのため損害賠償額の算定については、ある程度、定型化・定額化しています。
裁判となった場合の基準としては、「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」(「赤い本」と呼ばれています)という書籍に記載された基準が一般的に用いられています。この赤い本には、交通事故に関する判例や事故態様ごとの過失割合(どちらにどの程度の過失があるかの割合)も記載されています。実務的にも重要な基準であるといえます。
裁判基準以外の基準としては、被害者の最低限の保障である自動車損害賠償責任保険における基準もありますが、あくまで最低限の保障です。また、任意保険会社の基準もありますが、各保険会社がそれぞれ定めた基準であり、一般的には上述した裁判基準よりも低額です。被害者、加害者のいずれの立場であっても、また、早期に解決したい場合であっても裁判基準について確認しておくことが重要です。
弁護士を代理人にするかどうか
交通事故において弁護士を利用する場面としては、法律相談と事件処理の委任の2つの場面が考えられます。法律相談においては、どの弁護士も依頼者の利益を重視して法的観点から助言しますが、どのような点に利益を感じるかは人や事件内容、交渉経過によるところもあります。
例えば、長期間の保険会社や相手方との交渉に疲れてしまって、交渉から開放されたいという場合もあれば、保険会社の提示する賠償内容に納得できないという場合もあります。そのような依頼者それぞれの利益をしっかりと考えて、法律相談では助言しますので、まずは法律相談を受けてから弁護士に事件処理を依頼するかどうか決めるというスタンスでよいのではないでしょうか。
加害者の場合で被害者の求める賠償額に納得ができない場合でも、弁護士に依頼した場合の弁護士費用を考えると自身で交渉をした方が経済的な利益が大きい場合もあります。裁判の結果、賠償額が相当な額に定まったとしても、結果として差額よりも弁護士費用のほうが大きいとなると時間とお金の無駄になります。
一方で、事故態様や過失割合に争いがあり、一方的な主張を前提に著しく不相当な額を提示されている場合には、事実認定や法律上の解釈などが問題となります。そういった場合には専門家である弁護士に事件処理を委任する利益があります。
合理的な判断をするための判断材料を集めてみるという観点で法律相談を受けてみてはいかがでしょうか。
※ この記事は、執筆当時の法令や判例、実務的な運用に基づいて作成しています。また、一般的な情報提供を目的とした記事となりますので、個別の事案については法律相談をご検討ください。